「小学生のころから周りが身につけている洋服が一緒という環境が嫌だった」と話す串野真也さんは広島県にある因島という小さな島の出身。それ以来、学校ではジーンズを履くことにこだわり、高校生の時にはファッションの道を志すことを決意。京都の服飾学校を経てミラノへと留学、帰国後に京都を活動の拠点としました。コンペティションでグランプリ受賞をきっかけとし今ではシューズデザイナーとして一躍注目を浴びる存在となった串野さん。手掛けた靴の中には、レディーガガが履いたものも。人々を魅了する世界観を持つシューズという芸術作品を生み出し続ける串野さんにお話をお聞きしました。

まるで彫刻のような靴
現実を超越する作品づくり

現在は、靴や鞄などを中心とした、自身のファッションブランド「Masaya Kushino」のデザインを手掛けています。目指しているのは日常的に履くことを目的とする靴ではなく、彫刻のように作品となる靴。もちろん、履くこともできますし、歩くこともできます。

作品は、現実を超越する「ファンタジー」がコンセプト。想像でしか考えられなかったものを具現化し、作品にしています。例えば、キメラという作品は、全体に牛革、つま先にエイ、かかとの金具にはライオンの足、装飾に鹿の角を施したもの。最後に人が履くことによってひとつの生命の塊となり、キメラが完成するというコンセプトです。他にも、タマムシの羽と蛇の皮を組み合わせたものなど、自分の中にある美意識を頼りに「これとこれを組み合わせれば美しいな」と感じるものを、マッチングさせて整えています。

感性は遺伝子レベルで
人々の中に存在する

これらの作品は、動物や昆虫などの自然物をモチーフにしていますが、こういった動植物の形は、その環境において、そうならざる得ないフォルムだと思うんです。この地球や宇宙の摂理の中で、最終形であり最新形である。僕はそれを「ファイナルデザイン」と呼んでいます。私の作品はこの「ファイナルデザイン」からインスピレーションすることが多いですね。

感性って、誰からも習ってこなかったと思いませんか。例えば、夕日が綺麗であると感動することや月が美しいと思い眺める感覚。それは遺伝子レベルで受け継がれた「美意識」です。人が受け継ぎ、磨かれてきたファイナルデザインに知的好奇心をプラスすることによって、数多くの文学や科学、芸術が生まれています。誰もが持っている感性こそ、人にしか想像し得ないクリエーションに繋がるのだと私は思っています。

京都という活動拠点への思い
靴を手掛けるようになったきっかけ

京都の服飾学校に進んだのは、海外で活躍するためには自国の歴史を知る必要があると思ったから。海外のアーティストの方は、自分の国の歴史や文化、政治のことをよく知っていて、そのうえで自分が何者であるかを理解し、アイデンティティを確立しています。であれば、日本で一番歴史のある環境で勉強しようと、そう思ったんですね。ミラノへの留学後、再び京都に戻ってきたのも同じ思いからです。

帰国後は自身のブランドを立ち上げるために、数々のコンペに挑戦しました。でも鳴かず飛ばず。それを打破したのが、社団法人日本皮革産業連合会主催、経済産業省後援の「JLIA LEATHER GOODS DESIGN AWARD 2007」のコンペティションでした。このコンペで靴のデザイン画の部門のグランプリを受賞したことをきっかけに、それまでの洋服から一転、靴を手掛けるようになったんです。

靴はファッションアイテムの中で唯一、人が身に付けなくても形を維持できるという点が魅力。ファッションでありながら彫刻に近い存在。そこに大きな可能性を感じました。京都というバックグラウンドの中で育まれた、西陣織や漆、仏師さんの木の彫刻など、この地ならではの素材を取り入れることも。たとえば西陣織のように歴史のあるものと最先端の技術を織り交ぜることが、歴史の深い京都でものづくりに専念し続けている理由です。

自然と融合して、そこに在ること
作品と庭に共通するバランス感覚

たとえば、庭をつくる時に、池を掘ったサイズと同じ大きさの石を置くというルールが昔からありますよね。そこが非常に面白いな、と思うんです。プラスマイナスのバランスを調整して空間を整える、保つという感覚。これは作品づくりの際に僕が大切にしていることと近いものがあります。もともと、変わらないものよりも移り変わるものが良いと思っているんですね。人は、変わらないものに対しては感情移入しにくい。木々が成長することに自身をなぞらえることもあれば、朽ちたり削れたりするものにそのときの感情を反映させて感傷に浸ることもある。変化するからこそ愛着を持つことができる。そういったいわゆる"侘び"の部分にこそ感情が映し出され、そこに美意識が宿るのではないでしょうか。

僕が庭を作るなら素材としてガラスや木、石をミックスさせると思います。それによって自然と融合するような空間をつくり、時間とともに自分と成長していくことで思い入れを持ちながら、人としての歩みにあわせて築き上げられる庭であれば素敵かなと思いますね。

想像上にしかないものをカタチに
架空動物から広がる創造的未来

最近、「φαντασία(ファンタジア)」という新しいプロジェクトが始まりました。ファンタジアは、ギリシャ語で、「表像力/可視化する」という意味。これは、雌馬とグリフォンから生まれたヒッポグリフのような、架空動物の細胞をタンパク質の配列構造からつくり、タンパク質で生成することによって素材にするプロジェクトです。
宇宙の摂理によって決められた「ファイナルデザイン」を、高次元の創造へと進化させるという挑戦。架空の動物の衣服を身にまとうことは、形而上にしかなかった存在を形而下に変えていくという体験ができる。しかもテクノロジーで生み出されたものによって、動物を殺さなくても、今よりもリアルな毛皮をつくることできるようになるんです。

僕自身、動物が好きで、猫と一緒に住んでいることもあって、動物の毛や皮を使うということにジレンマを感じることもあります。確かに綺麗だけれど、そのために殺される動物のことも考えると葛藤はある。
だからこそ、消費社会という文脈から離れた新しい概念を築き、ファッションという形に落とし込んでいくことが僕の使命かなと。このことで、今よりももっと動物と共存できる世の中になれば最高ですよね。

串野さん

φαντασία(ファンタジア)プロジェクト
https://blog.vogue.co.jp/posts/5346168

「ファッションにはふたつの側面があり、ひとつは身に付けることで日常を豊かにするもの。もうひとつは、日常的ではないけれど見ることによって心を豊かにすることができるもの」と話す串野さん。後者である作品を手掛けるにあたって、美意識を大切にされています。その視線はしなやかで優しく、それでいて知的好奇心にあふれていました。串野さんが手掛ける作品と同じく自然と融合し、時間とともに成長していくというバランス感覚を持った想いは、まだ見ぬ庭づくりにおいても、新しい庭づくりのヒントにもなりそうです。

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