自分が庭づくりをしていて思うのは、庭は、自分が管理できるサイズ、ストレスを感じない広さであることが重要だということ。忙しくなると疎かになってくるのも現実。だから、ダイニングやリビング、そしてガーデン、と庭を切り離さずに間取りの一部屋、生活の一部として考えて、できる範囲でやっていきたいと思っています。庭づくりの過程で会話が生まれたり、はたまた学び場になったり。休日は、どこにも行かなくても庭で十分楽しめるというのが理想です。父母とはまた違った形かもしれませんが、家族と庭が密接な関係でありたいと考えています。
株式会社Flantesse(フランテッセ)代表取締役
デンマークスタイルと独自のアレンジを融合する技巧的なデザインのアーティスト
近年では複数の有名雑貨店にフラワーアレンジメントのデザインを提供するなど、活動の場を広げている
株式会社フランテッセ公式ホームページ:http://www.flantesse.jp/
「花をコーディネートする“空間”そこには生き方が反映される」と話す西名氏。2000年よりデンマーク出身のフラワーアーティスト、ニコライ・バーグマンが手掛けるフラワーショップに勤務し、その後フリーランスに転向。2010年に「株式会社フランテッセ」を設立した。現在は、法人のパーティーやウエディングの装花などを中心に、活動の幅を広げながら花を用いた空間演出を行っています。フラワーデザイナーとして活動するきっかけにもなった庭との深い関係などをお聞きしました。
全体の中で何をどう活かすのか
その空間内での花の役割を考える
現在は、株式会社フランテッセのフラワーデザイナーとして、法人や契約しているお客様を中心に、生花や造花の装飾から、花に関わるもの全般に手がけています。お客様がイメージする切り口から、お花で装飾する場所だけでなく空間全体を演出する提案をしていく。花が主になり過ぎないように、何を主役にしてどう魅せたいのか、そのために花がどういった役割を担うのかを常に意識していますね。
最近、化粧品メーカーの販売員さんが集まる勉強会で会場装飾を担当させていただいたんです。「入った瞬間、販売員さんを花の香りで酔わせたい。そして、士気を高めて帰ってほしい」というご意向だったため、目だけでなく、五感で楽しめるような装飾を意識しました。そこで、たくさんのユリを使うことで高貴な香りが立ち上るようにして、販売員さんの気持ちを高揚させることに。
このように、企業パーティーやイベント、それぞれに合わせた企画提案から実製作まで行うため、大きな装飾になると、クライアントとの打ち合わせ、要望をブラッシュアップで重ねていって、半年以上の期間を費やすことも。うちでは、こういった仕事をメインに、ウエディングのデザインや卸販売なども行っています。
「ありがとう」を糧として
お客様に喜んでもらうご提案
「株式会社フランテッセ」を設立してから9年が経ちましたが、経営者というのは名ばかりで、本当は花を作ることだけに特化したいという気持ちなんです。だから、経営戦略というようなことは、あまり考えてなくて…。「ありがとう」と言ってもらうことを積み重ねた結果、現在まで続けられているような気がします。もちろん大変な時期もありましたし、今も山あり谷ありですけど、目の前にあるものをやっていくことでつながりができました。
花に携わるようになったのは、20代になってから。大学は農学部で発酵の勉強をしていました。微生物などの“生き物”が好きなんです。それもあって一度は、食品メーカーに就職をしましたが、生き物に触れる機会が減り、どこか物足りなさを感じるように。自分の好きな仕事にしたいと、夜間に花の専門学校に通って、有名デザイナーニコライ・バーグマンのフラワーショップに転職しました。
どうして花屋さんを選んだのかと言うと、小さい頃から家族が「庭」と密接な関係を築いてきたから。父と母、祖父母が庭をとても大事にしていたので、知らず知らずのうちに土や緑に触れられる環境だったんです。
幼い頃の経験が導いてくれた
フラワーデザイナーへの転身
母方の祖母は東京に住んでいたのですが、だんだん庭だけでは飽き足らなくなって、勝手に京成電車の線路脇に花を植えていました。それが、あまりにもきれいだからって、鉄道会社から公認していただけるまでになったんですよ。遊びに行くと、祖母が庭や線路脇から季節の花を切って、帰り際にたくさんの花を持たせてくれました。いつも花をもらうので、家に飾ることも習慣になっていたんですよね。また父方の祖父がわたしの実家にきて、庭をつくっているのも見てきました。父と祖父が庭を作っていて、母がおやつにスイカを出してくれて…。そんな光景を縁側に座って見るのがすごく楽しみだったんです。庭に花を植えたり刈ったりした小さい頃の体験が、この道に進むきっかけになったのかなと、今になって思いますね。
庭から得られる体験こそが
それぞれの感性を磨いていく
一時期、勉強のために造園の学校に通っていたほど、庭が好きなんです。今も時折、やっぱり造園屋さんに転職したいと思うくらい、興味のある分野です。実は夫が造園業をやっているので、私がイメージしたものを形にしていきたいなという気持ちもあって。だから、帰宅後には夫婦で20年かけて庭をどうしていきたいかというような先の長い話をよくしています。仕事だと一つのイメージに特化して表現するのですが、自分たちが手掛けるのは、全ての要素を加えた盛りだくさんなもの、季節の移ろいとその季節ならではの彩りを楽しめる庭にしたいと思っています。あと、ビオトープをつくりたいなと考えていて…。自然の生き物が生息する環境って、いいですよね。小学生の息子がいるのですが、花を植えたり、土を撒いたり、芝を張ったりなど、一緒にやりたいとお手伝いしてくれるので、庭で過ごす時間がついつい長くなりますね。
壮大な理念や将来のビジョンを掲げるよりも、もっとささやかな日々のつながりを大切にしたいという西名さん。お客様に寄り添ったクリエイティブな空間は温かなコミュニケーションから生み出されるもの。その温かな姿勢からお客様から『西名美和子商店』と呼ばれることもあると話します。小さい頃も、そして今も変わらずに大切にされている「家族」と「庭」、そこから生まれる人と人とのつながり。フラワーデザイナーとして、常にお客様に寄り添った提案をし続ける想いと姿勢。庭づくりを通じて、西名さんの根底にある人への想いが、これからも脈々とつながっていきます。